【ウマ娘史実解説】「今でも、愛してる」名牝スティルインラブの生涯と、相馬野馬追を駆けた”たった一人の息子”

「その育成は、最適解か?」データで語るリアリスト、一条 慧
「その物語は、美しいか?」感情で読み解くロマンチスト、篠宮 静真
「その走りは、魂を震わすか?」根性で応援するパッション、夏目 創
我々は、福岡の知的探求ユニット「黄昏探求舎(たそたん)」
今宵も、一頭の名馬の生涯(物語)に、最大限のリスペクトを込めて。
今回のテーマは───

目次

夜空に咲いた、三冠の赤い花。名牝スティルインラブ、その閃光と永遠の物語

篠宮

……ねえ、二人とも。夜空に咲いて、一瞬で消えていく花火を見たことがあるかい?

篠宮

先日、『ウマ娘 プリティーダービー』に育成実装されたばかりの『スティルインラブ』。彼女と、彼女を唯一愛した騎手の物語は、僕には、まるでそんな花火のように、どうしようもなく美しく、そして切ないものに思えるんだ。

夏目

ああ、スティルか……!分かるぜ、篠宮さん。幸英明騎手とのコンビは、本当に『運命』って感じだよな……。

一条

感傷に浸る前に、まず事実とデータを整理しよう。その『運命』が、いかに低い確率の事象だったのか。まずは、その出会いから見ていくぞ。

第1章:運命の出会い

一条

データ上、2002年当時の幸英明騎手は、デビュー8年目にしてGⅠ未勝利。スティルインラブは、父サンデーサイレンスの良血馬だ。本来、彼に騎乗依頼が来る可能性は極めて低かった。スティルインラブの調教師である松元省一厩舎では、松永幹夫騎手が主戦を務めていたからな。

篠宮

だが、一本の電話が運命を動かす。調教師の息子、松元靖雅助手の『この馬、すごくいい動きをするから乗ってみれば』という、何気ない一言。縁(えにし)というのは、いつもそうやって、静かに始まるものだよね。

夏目

付きっきりで調教に乗る幸騎手の熱意と、オーナーの義理堅さ!そして、デビュー戦では、松永幹夫騎手が乗る同じ馬主の馬(ヘヴンリーロマンス)に圧勝するって……。ドラマチックすぎるだろ!

第2章:試練と栄冠

篠宮

だが、若き才能には試練がつきものだ。桜花賞トライアルのチューリップ賞、彼は大ベテラン・安藤勝己騎手の老獪な罠にかかり、完璧な敗北を喫する。『負ければ乗り替えられる』……その恐怖は、筆舌に尽くしがたいものだったろうね。

夏目

分かるぜ……。GⅠをまだ勝ってない若手にとっちゃ、死活問題だもんな……。松元調教師のもとに戻りたくない、このまま、スティルインラブと、遠くへ逃げたいなんて思うほどに……。

一条

だが、彼はここで興味深い行動に出る。『メンタルの強化』を試みたんだ。メンタル本を読み漁り、一つの結論に達する。……それは、『ガムを噛む』ことだった。

篠宮

人知れず、緊張をほぐすためにガムを噛みながら臨んだ桜花賞。そして、直線の最終コーナーで、彼の目の前に、再び悪夢……安藤勝己騎手が壁として立ちはだかるんだ。

夏目

うわー、熱い!そこを、今度は怯まずにこじ開けて、早仕掛けでも勝つ!一度負けた相手に、同じ舞台でやり返す!これぞスポ根の王道だ!

第3章:三冠、そして見えざる絆

一条

続くオークスでは、最大のライバル・アドマイヤグルーヴが1.7倍の圧倒的1番人気。だが、彼はそれをプレッシャーからの解放と捉え、完璧な騎乗で勝利した。

夏目

オークスは凄かったんだよな!レース中に落鉄するという致命的なアクシデントに見舞われながらの勝利!根性ありすぎだろ!

一条

ああ。担当の草木調教助手が『あの時が一番強かった』と語るのも、当然の帰結だな。

一条

スティルインラブは、2003年、1986年のメジロラモーヌ以来史上2頭目となる『牝馬三冠』を達成した。桜花賞、オークス、秋華賞。三つの異なる距離、異なるコースで頂点に立つ。この偉業の達成確率は、データ上、極めて低い。

篠宮

安堵の桜花賞、確信のオークス、そして称賛の秋華賞。三つの冠は、それぞれ違う意味を持っていた。だが、その全ての縁(えにし)が、実は、幸騎手の知らない場所で、一本の糸に繋がっていたことを、彼は後に知るんだ。

夏目

兄弟子だった田原成貴元騎手の、『俺はいいから、英明を乗せてやってくれ』っていう、あの話か……!泣けるぜ……!

夏目

田原元騎手が、人知れず松元調教師に幸騎手を頼むと言ってくれていたことから、幸騎手とスティルの縁ができたってことだな!

終章:受け継がれる魂

篠宮

だが、完璧な輝きは、長くは続かない…。彼女は古馬になって以降、一度も勝利を手にすることなかった。

一条

一般的には、父サンデーサイレンスの父父、母の父父でもあるHail to Reasonの3×3という、極めて強いインブリードによる気性的な問題が指摘されているな。

篠宮

そして、2007年、たった一頭の息子を遺して、急逝する。彼女を育てた人々もまた、それぞれの道を歩み……。

夏目

けどな、物語はそこで終わりじゃない!その忘れ形見、ジューダが、福島県の『相馬野馬追』で神馬として活躍したんだ!ウマ娘にもなってるノーリーズンはもちろん、ゴールドシップやドゥラメンテの子供たちも走ってる、あの祭りでな!

篠宮

血は途絶えても、魂は受け継がれていく……本当に、美しい物語だ。多くのファンが、『今でも愛してる(Still in love)』と思える……まさに、その名にふさわしい名牝だったね。

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