第4話を読む
日本のジレンマ ~なぜサウジアラビア参加に慎重なのか?~
【特集】
日本の次世代戦闘機・GCAPをめぐる世界の攻防
– 日英伊共同開発の行方とサウジアラビアという存在感
第5話:緊迫!5月イタリア会談の行方
~サウジアラビア参加は実現するのか? 最新動向~

前回は、GCAP(次世代戦闘機共同開発計画)へのサウジアラビア参加問題に対し、日本がなぜ慎重な姿勢を取らざるを得ないのか、その背景にある「防衛装備移転三原則」や「技術流出リスク」、「計画遅延」といった深刻なジレンマについて解説しました。
メリットを期待するイギリス・イタリアと、多くの懸念を抱える日本。そして参加に強い意欲を見せるサウジアラビア。それぞれの思惑が交錯する中、GCAPプロジェクトは今、一つの重要な局面を迎えようとしています。
日本の報道によると、今月(2025年5月)にもイタリアのローマで、日本、イギリス、イタリアの3カ国の防衛大臣による会談が開催される方向で調整が進められています。さらに注目すべきは、この会談の枠組みにサウジアラビアの防衛当局者を交えることも調整されている、という情報です。
この会談は、GCAPプロジェクトの具体的な進捗を確認し、今後の方向性を決定する上で極めて重要な意味を持ちます。特に、最大の懸案であるサウジアラビアの参加問題について、何らかの進展が見られるのか、世界中が固唾をのんで見守っています。
何が話し合われる? 5月会談の主な焦点
調整中とされるこの5月の会談では、主に以下のような点が議論されると予想されます。
- 開発スケジュールの確認と堅持
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目標である「2035年までの配備開始」に向けて、開発が順調に進んでいるかを確認し、スケジュールを堅持していく意志を再確認すること。特に日本は、計画の遅延を強く懸念しており、この点を改めて強調すると見られます。
- GIGOと企業の契約
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GCAP計画全体の司令塔となる政府間機関「GIGO(ジャイゴ)」と、実際に開発・製造を担当する企業連合(日英伊の主要企業による共同事業体:JV)との間で、具体的な作業を発注するための契約締結に向けた調整状況。これが進まないと、実際の開発作業が本格化しません。
- サウジアラビア問題の扱い
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これが最大の焦点です。サウジアラビア当局者が実際に会談に参加するのか、参加した場合、どのような議論が行われるのか。サウジアラビア側からの提案(資金提供、技術アクセス要求など)に対し、日英伊がどのような反応を示すのか。あるいは、今回は直接的な協議は見送られ、3カ国間での内部調整に留まるのか。
- 相互運用性の確保
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GCAP戦闘機と、アメリカの次世代機(NGAD)やNATO標準との連携(相互運用性)をどう確保していくか、といった技術的な課題についても話し合われる可能性があります。
各国の思惑と駆け引き:それぞれの胸の内は?
この重要な会談に、各国はどのような立場で臨むのでしょうか?(以下は報道などに基づく推測です)
- 日本(中谷防衛大臣)
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2035年配備というスケジュールを死守したい。技術流出リスクを最小限に抑え、日本の防衛装備移転三原則との整合性を保ちたい。サウジアラビア参加には依然慎重だが、英伊との協調も維持する必要があり、参加を認める場合の条件(限定的な関与、厳しい情報管理など)について、どこまで譲歩できるか探る可能性も?
- イギリス(ヒーリー国防大臣)・イタリア(クロセット国防大臣)
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サウジアラビア参加による資金的なメリットを重視。日本の懸念(技術流出、スケジュール遅延)に対して、何らかの対策案を示し、説得を試みる可能性。3カ国の結束を維持しつつ、サウジ参加の道筋をつけたい?
- サウジアラビア(もし参加すれば)
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豊富な資金力をアピールし、GCAPへの貢献意欲を強調。見返りとして、単なる購入国ではなく「パートナー」としての地位、可能な範囲での技術アクセスや国内生産への関与を要求か?日本の懸念を払拭するための提案をする可能性も。
各国がそれぞれの国益と戦略を背負い、水面下での激しい駆け引きが予想されます。
会談後のシナリオ:GCAPの未来はどうなる?
この5月の会談の結果次第で、GCAPの今後は大きく変わる可能性があります。考えられるシナリオはいくつかあります。
- シナリオ1:サウジアラビア参加へ大きく前進
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日英伊間でサウジアラビアの参加(形態や条件は未定でも)を容認する方向で合意。プロジェクトの資金面での安定性は増すが、今後の詳細な条件交渉は難航も予想され、技術管理やスケジュールへの懸念は残る。
- シナリオ2:サウジアラビア参加は見送り、または棚上げ
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日本の慎重論が通り、当面は日英伊3カ国体制を維持することで合意。プロジェクトの基本路線は維持されるが、資金調達への懸念や、サウジアラビアとの関係、英伊との間にしこりが残る可能性も。
- シナリオ3:結論先送り、継続協議へ
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今回の会談ではプロジェクトの基本的な進捗確認に留まり、サウジアラビア問題については明確な結論を出さず、引き続き水面下での協議を続ける、という可能性。当面の混乱は避けられるが、問題解決には至らない。
まとめ
間もなく迎える(かもしれない)イタリアでの日英伊(+サウジ?)防衛相会談。GCAPプロジェクトが当初の計画通りに進むのか、それとも新たな展開を迎えるのか、まさにその岐路に立っています。この会談でどのような結論が導き出されるにせよ、それは今後の世界の戦闘機開発競争や、国際的な安全保障協力のあり方に大きな影響を与えることになるでしょう。
(※この会談の結果については、新たな情報が入り次第、本特集で速やかにお伝えしていく予定です。)
さて、このようにGCAPをめぐる動きが活発化する一方で、世界では他の国々も次世代戦闘機の開発や導入を進めています。GCAPは、これらのライバルたちとどう渡り合っていくのでしょうか?
次回は、GCAPを取り巻く世界の他の国々の視線に焦点を当て、アメリカのNGAD計画、欧州のFCAS計画、そして中国や韓国などの動向を見ながら、GCAPが置かれている国際的な競争環境について考察します。
第6話:GCAPを取り巻く世界の視線 ~米・欧・中・韓… 各国の戦闘機開発競争~
画像出典:防衛省・自衛隊ウェブサイト(https://www.mod.go.jp/j/policy/defense/nextfighter/index.html)公共データ利用規約(第1.0版)(PDL1.0)(https://www.digital.go.jp/resources/open_data/public_data_license_v1.0)
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