2025年12月15日、日本の安全保障政策は歴史的な転換点を迎えました。自民党と日本維新の会が合意した「防衛装備移転三原則」の運用指針改定。長年、輸出の障壁となっていた「5類型の壁」が事実上撤廃されます。そのわずか4日後の12月19日、防衛省で行われた小泉大臣の会見では、ニュージーランド(NZ)による「もがみ型護衛艦」への強い関心が浮き彫りとなりました。先行する豪州との足並み、そして背後に潜む「情報の壁」の収益化リスクを、黒木リポートが再検証します。


日ニュージーランド防衛相会談(出典:防衛省ウェブサイト)
1. 2025年12月15日:戦後安保の「OS」を書き換えた自維合意
12月15日、自民党と日本維新の会は、防衛装備移転三原則の運用指針において、殺傷能力を持つ「完成品」の輸出制限を事実上撤廃することで合意しました。これまで移転を「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の5類型に限定してきた制度は、個別の案件ごとに政策判断を行う方式へと移行します。
この指針改定は法改正を必要としないため、政府は与党提言を踏まえ、2026年4月にも国家安全保障会議(NSC)の9大臣会合で決定する見通しです。日本が「セキュリティ・プロバイダー」として、グローバルな防衛産業のサプライチェーンに本格参入する法的基盤が整いつつあります。
2. 12月19日会見:NZが示す「もがみ型」への熱視線
政治合意からわずか4日後、事態は具体的に動き出しました。12月19日、防衛省A棟10階会見室で行われた小泉防衛大臣の記者会見において、ニュージーランド海軍による「もがみ型」導入の意欲について言及がありました。
「ニュージーランド政府は現在、海軍の艦艇更新計画を政府部内で検討中だと承知していますので、今後も日本として緊密に意思疎通を図っていきたいと考えています」(令和7年12月19日 防衛大臣記者会見議事録より)
NZ海軍司令官が「もがみ型」能力向上型に強い関心を示しているという指摘に対し、大臣が否定せず「緊密な意思疎通」を明言したことは、12月15日の合意(完成品輸出の解禁)がいかにタイムリーなものであったかを物語っています。
3. ニュージーランドと豪州が求める「軍事的同期」の合理性
NZが「もがみ型」を渇望する背景には、隣国・豪州との「軍事的同期」という冷徹な計算が存在します。
- 相互運用性の最大化:2025年8月に豪州が「新型FFM(06FFM)」を採択したことで、NZも同型艦を導入すれば、部品調達、訓練、メンテナンスを豪州と完全に「同期」させることが可能になります。
- 人員不足への解決策:「もがみ型」の高度な自動化・省人化技術は、深刻な乗員不足に悩むNZ海軍にとって、他国製にはない決定的な「選定理由」です。
- 法的インフラの整備:会見と同日の19日、日NZ間で署名された「情報保護協定(ISA)」および「物品役務相互提供協定(ACSA)」は、この護衛艦輸出を支えるための必須の法的な裏付けに他なりません。
4. 【警告】技術防壁の限界と「情報の壁」の脆弱性
しかし、制度上の障壁が消滅した今、次なる焦点は「守れるかどうか」へ移ります。
前回の検証記事【独自検証】豪造船大手の「韓国買収」承認。日本の最先端護衛艦技術に忍び寄る「情報の壁」の限界で指摘した通り、同日の12月19日には豪造船大手オースタルへの韓国ハンファ・グループによる出資が承認されました。
NZが「もがみ型」を導入し、日・豪・NZの「南太平洋の盾」が完成する一方で、その建造・保守を担う現地企業が第三国資本の干渉を受けるリスクは顕在化しています。5類型の撤廃は、日本に「売る自由」を与えるのと同時に、技術を「守る責任」のレベルを極限まで引き上げたと言えます。
5. 2026年4月、日本の防衛産業は「聖域」を脱する
2026年4月のNSC決定を経て、日本の防衛装備移転は名実ともに「個別の政策判断」の時代へと突入します。12月19日の小泉大臣の答弁は、単なる装備品のセールスではなく、NZとの深い軍事的一体化への布石です。日本製の「鋼鉄の城」が南半球の海を守る時、我々が守るべきは船体というハードウェアだけでなく、その中に宿る「日本の知財」という国益そのものなのです。
この記事の案内人のご紹介


社会課題アナリスト。国際インテリジェンス・安全保障研究所の所長。専門は地域活性化/国際情勢/防災。研究所での知見を活かし、メディア「ゆるなご」に寄稿中。趣味はスパイスカレーと刀剣鑑賞。
