春吉の路地裏で、好きだった店の面影を見つけて。
東京に、好きだったカレー屋がある。 鉄鍋に盛られた、あの濃厚なカレー。いつからか、私の中の「美味しいカレー」の一つの基準になっていた。
その店の面影を、まさか福岡・春吉の路地裏で見つけるなんて、思ってもみなかった。
きっかけは、Instagram。画面に流れてきた一枚の写真に、心臓が跳ねた。 あの鉄鍋だ。居ても立ってもいられず、私はその店へと向かった。
表札は「カレー」。扉の先には、春吉の空気をまとう空間。
住所を頼りにたどり着いたのは、ごく普通の一軒家。 そこに、ただ「カレー」とだけ書かれた小さな表札が掛かっている。


少しの戸惑いと、大きな好奇心を胸に扉を開けると、そこは家の玄関ではなく、どっしりとしたカウンターが迎える、お洒落なバーのような空間だった。
銀座のように背筋が伸びるお洒落さではない。渋谷や、まさにこの春吉という街の空気をまとったような、心地よいラフさのある格好良さ。照明は少し暗めだが、店の顔である大きなガラス窓から自然光が差し込み、不思議と入りやすい。席の後ろもゆったりとしていて、すぐにこの空間が気に入った。
一口で心を掴む、濃厚で「ネッチョリ」な一皿。
「ほうれん草カレー」と「トマトカレー」を注文して、しばらく待つ。
やがて、鉄鍋に盛られたカレーが目の前に置かれた。ふわりと立ち上る、幾重にも重なったスパイスの香り。

ほうれん草カレー


トマトカレー

スプーンですくうと、ずしりと重い。 よくある水っぽいカレーではない。「ネッチョリ」とでも言うべきだろうか。濃厚なルーが、スプーンにゆっくりと絡みつく。
一口、口に含む。 豊かで、濃厚で、そして、ただただ嬉しい味が、口いっぱいに広がった。 その瞬間に、確信した。今日は、特別な一皿に出会ってしまった、と。
記憶を越える、丁寧な仕事への感動。
驚いたのは、鶏肉だった。 ゴロゴロと入った様々な部位の肉は、ただカレーで煮込まれただけではない。一つ一つの肉に、丁寧な仕事がされているのが分かる。おそらく、絶妙な下味がついているのだろう。濃いスパイスの海の中でも、鶏肉そのものの味が薄まることなく、むしろ力強く、その存在を主張してくる。
ほうれん草の青臭さは全くなく、その風味と旨味だけが、惜しみなく投入されたスパイスと見事に調和している。辛さで誤魔化すのではなく、香りの豊かさと深みで、真正面から勝負している味だ。
東京の好きだった店の記憶が、新しい感動で塗り替えられていく。 思い出は、いつだって美しい。 でも、今、目の前にあるこの一皿は、それ以上に、ただただ美味しかった。
鉄鍋のおかげで、最後まで熱々のまま。 最後の一口まで夢中で食べ終え、お代わりしたい気持ちを必死に抑える。
この感動が1200円でいいのだろうか。 店を出る頃には、もう次に訪れる日のことを考えていた。
店舗情報
店名 | you & me curry |
住所 | 〒810-0003 福岡県福岡市中央区春吉2丁目17−1 |
営業時間 | 月〜土 9:00~17:00 (材料無くなり次第終了) |
定休日 | 日曜日 |
支払い方法 | 現金のみ |
https://www.instagram.com/you.and.me.curry/ |