都市という要塞に集うムクドリに対し、私たちは手をこまねいているだけではない。北は福島から南は福岡まで、全国の自治体は住民の平穏な夜を取り戻すため、知恵と工夫を凝らした対策を繰り広げている。その姿は、まさに官民一体となった「攻防戦」の様相を呈している。
対策は多岐にわたる。会津若松市では、古くながらの「拍子木」や運動会で使う「競技用ピストル」の乾いた音が、鳥たちを追い立てる。習志野市や福井市では、鷹匠の手から放たれたハリスホークが空を舞い、天敵の存在を本能に刻み込む。また、志木市のように、鳥が嫌がる特殊な音波を出す「防除装置」を設置する自治体も増えてきた。
しかし、これらの対策も一筋縄ではいかない。賢いムクドリはすぐに音や光に「慣れ」、一つの対策だけでは効果が長続きしないことが多い。さらに、鳥獣保護法により、彼らを捕獲・殺傷することは原則として禁じられているため、対策はあくまで「追い払い」に留まる。結果、ある場所から追い払われた群れが、少し離れた隣の自治体へと移動するだけの、終わりなき「いたちごっこ」に陥ってしまうケースが後を絶たない。
では、この膠着状態を打破する鍵はどこにあるのか。そのヒントは、福島市が実施した「ムクドリ・カラス追い払い大作戦」にある。
福島市は、鳥類の専門家である信州大学名誉教授を招聘。専門家の指導のもと、「鷹の剥製と鳴き声」を組み合わせた通称「長野方式」を主軸に、ロケット花火やレーザーポインターなど、ありとあらゆる手法を総動員した。そして何より重要だったのは、行政職員だけでなく、地域の町内会が主体的に参加し、短期集中で徹底的な追い払いを行ったことだ。
作戦後、専門家はこう語る。「行政だけの対応には限界がある。即応できる地域の方々の協力が不可欠だ」。
この「福島モデル」が示すのは、成功の鍵が「複合的なアプローチ」と「市民との協働」、そしてそれを支える「継続性」にあるという、シンプルだが実行の難しい真実だ。一つの手法に頼らず、住民と行政が一体となって、諦めずに続ける。それこそが、高い壁を打ち破る唯一の道なのである。
【ムクドリ問題・集中連載】
▶︎ 【第1回】都市の喧騒、田園の静寂 ~あなたの知らないムクドリの真実~
▶︎ 【第2回】なぜ都市へ? ビル壁、街路樹、安全なねぐらという引力
▶︎ 【最終回】「共存」か「棲み分け」か ~減少する隣人との未来を探る~