

2026年3月末、北大西洋条約機構(NATO)の歴史において、後の教訓として語り継がれるであろう「決裂」が表面化した。スペイン政府による米軍機への領空通過拒否と、国内軍事基地の使用制限である。一見すれば、一国の主権行使に過ぎないこの決断が、なぜトランプ政権による「NATO脱退」という極端な議論に直結しているのか。その深層には、1949年の創設以来、同盟が抱え続けてきた「片務性」という構造的欠陥がついに臨界点に達したという冷徹な事実がある。
1. 「マドリードの壁」:2026年3月30日の衝撃
2026年2月末に再燃した対イラン軍事作戦において、スペインのサンチェス政権は、南部アンダルシア地方に位置するロタ海軍基地およびモロン空軍基地の「攻撃目的での使用」を断固として拒否した。さらに同年3月30日、スペインはイラン作戦に関与する米軍機に対し、自国領空の通過を全面的に禁止する措置を講じた。
欧州メディア『Euractiv』の報道によれば、スペイン国防省は「スペインの基地と領空は、国際法に反すると我々が判断する作戦には貸し出さない」と明言している。米国にとっては、長年維持費を負担し、欧州防衛の要石として運用してきたインフラが、自国の死活的利益(エネルギー安全保障と航行の自由)を守る局面で「物理的な障壁」となった瞬間であった。
2. 「第5条」の非対称性という呪縛
NATO憲章第5条は、一加盟国への攻撃を全加盟国への攻撃とみなす「集団防衛」を定めている。米国は冷戦期から現在に至るまで、欧州がロシアの脅威に晒されるたびにこの義務を再確認し、核の傘と膨大な駐留兵力を提供してきた。
しかし、今回のスペインの対応は、米国側に一つの残酷な問いを突きつけた。「米国が欧州を守る義務(第5条)を負う一方で、欧州は米国のグローバルな安全保障上の危機を助けるどころか、物理的に妨害する権利を持つ。これは果たして『同盟』と呼べるのか?」
トランプ政権の論理は極めて簡潔だ。NATOを「欧州を一方的に守るための高額なサービス」と定義し直し、その対価として戦略的協力が得られないのであれば、契約を解除すべきだという考えである。2026年4月現在、ワシントンでは「スペインを守るために米軍の命をかける義務を維持しながら、そのスペインに足を掬われる不条理」への怒りがかつてないほど高まっている。
3. ホルムズ海峡:リトマス試験紙としての紛争
今回の摩擦の根源には、ホルムズ海峡を巡る安全保障観の解離がある。欧州諸国は中東での軍事介入を批判するが、現実として欧州のエネルギー供給はその海峡の安定に依存している。
米国側の主張は、「欧州のストーブを温めるための原油が通る道を、米軍の血と税金で守らせておきながら、そのための軍事行動には領空さえ貸さない。これはフリーライダー(ただ乗り)を通り越した背信行為である」というものだ。スペインが引いたトリガーは、単なる基地使用の可否ではない。それは、「米国はもはや欧州のわがままを支える寛大なパトロンではない」という新時代の到来を告げる合図だったのである。
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社会課題アナリスト。国際インテリジェンス・安全保障研究所の所長。専門は地域活性化/国際情勢/防災。研究所での知見を活かし、メディア「ゆるなご」に寄稿中。趣味はスパイスカレーと刀剣鑑賞。
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